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短編 2011.06.18 20:46
短編というほど短くもない。

突然始まり突然終わっているので注意。
長い話の中の一幕的な感じになってしまいましたので。


ちなみにゾロサンです。


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「待て」
傍らを通り過ぎようとした瞬間、不機嫌もあらわな声がかけられた。それと同時に、強い力で手首を掴まれる。
強いと言っても、痕が残りそうな程ではない。振り払おうとしたら出来る範囲だ。
だが、振り払おうとした瞬間、逃がすまいと掴む力が強くなる事はわかりきっている。だから、あえて振り払う事はしなかった。
とはいえ、この状況を甘んじて受け入れる気にはならない。この状況が気に食わないと思っている事は知らしめなければ。
そう思い、視線をゆっくりと、手首を掴み取っている男の瞳へと向けた。
その眼差しに、これ以上ないほどの怒りと殺気をこめて。
「……放せよ」
「放すかよ」
これ以上ないほどの怒気と殺気を孕んだ言葉に、男は平然とした態度で返してきた。そして、手首を掴む力をほんの少しだけ強くする。放す気はさらさらないと言わんばかりに。
そんな男の顔を睨みつけたまま、僅かに足を引いた。出来る限り、男との距離を作るために。
そんなサンジの行動に、男の眉間に深い皺が寄った。
不機嫌そうに。
自分との距離を広げられた事が不快だと言わんばかりに。
だが、そうではない。
その瞳に、悲しみの色が浮かび上がっているのだから。
不機嫌になったわけでも不快感を覚えたわけでもなく、距離を取られた事に、傷ついたのだ。
内心で舌を打つ。なんでそんな男の内心に気づくのだと。気づかないでいられたら、態度がでかい嫌な奴だと思えたのに。
「逃げんじゃねーよ」
いつも自信満々に、強気な光を宿している瞳を陰らせながら、男が言葉を発した。
一見、いつもと同じ不遜な態度で。足を引いた自分のことを、負け犬とせせら笑うような口調で。
彼のことを良く知らない奴らなら。いや、もしかしたら、ナミやロビンでさえも、逃げようとしたサンジを馬鹿に仕切っている態度だと思うかもしれない。
だが、その声音はいつもより弱い。
こんな状況じゃなかったら、なに情けない声を出しているのだと、お前にもそんな声が出せたのだなと、からかっていた事だろう。
しかし、この状況でそんな事は出来ない。軽口を叩くことなど、出来るわけがない。
だから、男の瞳を睨みつけたまま、不機嫌もあらわな声で返した。
「逃げるに決まってんだろうが」
その言葉に、男は軽く目を見張った。そんな切りかえしがくるとは思っていなかったのだろう。
いつもなら、逃げるのかなどと聞かれたら、絶対に刃向かうところだから。
だからこそ、「逃げる」という言葉を使ったのだろう。自分をわざと怒らせ、この場に留まらせる時間を引き延ばすために。
それがわかっているから余計に、逃げないとは言えない。逃げねばならない状況な事だし。
「……なんで逃げんだよ」
思わぬ切り替えしに動揺したのか、返された言葉は、親を見失った幼子かと思うくらい弱いものだった。
ズキリと、胸の奥に痛みが走った。
だが、そんな痛みには気づかなかったふりをする。表情にも出さないよう、男を睨み付ける眼差しをより一層強くした。
「そうしないと、本気でてめーを蹴り潰したくなりそうだからだよ」
声音にも眼差しにも、仲間に向けるものとは思えないほど強い殺気を込めて答えを返せば、男はぐっと口をつぐんだ。何故自分がそうしたくなるのか、説明しなくても理由がわかったのだろう。
彼は知っているのだ。
自分がどれだけレディを愛しているのかを。男なんて眼中にないのかを。
それらのことは、どれだけ短期間の付き合いでも見て取れるだろう程あからさまに態度に出しているのだから、付き合いが長いこの男にわからないわけがない。
だから、今までなにも言ってこなかったのだろう。どれだけ熱い眼差しで見つめてこようとも、自分の思いを口に出してくることはなかった。
なのに、何故。
今になって。
盛大に舌を打つ。
そして、吐き捨てるように言葉を漏らした。
「………なんで口にしやがった」
「………なに?」
呟くように発した言葉に、男は軽く眉間にシワを寄せた。聞き違いかと、その瞳で問い掛けながら。
そんな男の瞳を睨み付けながら、言葉を返す。
「人がせっかく気づかないふりをしてやってたのに、なんで言いやがったんだっつってんだよ」
告げた言葉に、男は大きく目を見張った。
「……気づかないふりって、てめー……」
「てめーがおれをどんな目で見てたか気づいてたっつってんだよ」
呆然とした表情で呟かれた言葉に、吐き捨てるように返した。
男の身体が大きく揺れる。それと同時に、瞳に暗い影が走った。サンジの言葉で、はっきり聞かずとも答えがわかったのだろう。
それでもあえて、言葉を続ける。
「なんでおれが気づかないふりをしてたかわかるか? 気に食わない事は多々あるが、てめーは仲間だ。殺すわけにも再起不能にするわけにもいかねー。だからだ」
畳み掛けるようにそう告げたサンジは、そこで一旦言葉をきり、男の顔を睨み付ける。表情自体はいつもと同じだが、顔色が悪くなり、瞳に先程よりもさらに暗い陰りを見せている男の顔を。
ズキズキと心臓が痛みを発している。思わず患部をにぎりしめたくなるほど、強い痛みが。だが、そんなことをするわけにはいかない。その痛みに顔を歪めるわけにもいかない。
だから痛みに耐えるため、気づかれないよう、捕まれているのとは逆の手をきつく握りしめた。
そして小さく息を吐き、気持ちを落ち着ける。
「……どうする?」
問い掛けに、男は軽く眉間に皺を寄せた。
なにを問われているのかわからないのだろう。
そんな男に、説明を加えてやった。
「聞かなかった事にしてやろうかって聞いてんだよ。そうすりゃ今まで通り、普通の仲間としての付き合いをしてやる。取下げないってーなら、てめーの事は今後一切、仲間と思わねぇ」
そうなったときに自分がどんな態度に出るのか分かっているよなと続け、さあ、どちらが良いと、瞳で問い掛ける。
睨みつけるわけでもなく。
だが、その瞳に冷ややかな光を浮かべて。
男がぐっと口をつぐんだ。手首を掴んでいる手にも、力が篭る。
骨が砕けるのではないかと思うくらい、痛い。
だが、振り払う気にはなれなかった。彼の体温を直に感じる機会は、これが最後かもしれなかったから。
じっと、男の顔を見つめる。
いつも真っすぐ前を見つめている男が、今は俯きがちになっている。
答えを迷っているのだろう。どちらを選ぼうと、彼は悲しみや苦しみを抱くことになるだろうから。
どちらがマシかなんてことは、サンジにもわからない。
だが、言葉を撤回してくれればと、思う。
「……忘れろっつったら、てめーは忘れられんのかよ」
ボソリと、低い呟きが漏れた。その呟きを鼻で笑い飛ばす。
「さっきの話聞いてたか? おれは、てめーの気持ちを知ってたけど丸無視してたんだよ。なかった事にするのなんて簡単な事だ」
だから、お前次第なんだと冷えた眼差しで告げれば、男はサンジの手首を掴む力を更に強くした。
手首から先の色がおかしくなっている。どれくらい、手首から先に血液が回らなくなっているのだろうか。
このままでは手首がモゲ落ちるかなと考えていると、目の前にある唇がゆっくりと開かれた。
「……なかった事にはしねぇ」
低い、小さな声だった。
しかしそこには、強い意思が見える。
彼らしい、強い意思が。
「見込みがねぇからって一度出したもんを引っ込めるのは、男らしくねぇからな」
俯きながらそう続けた男は、そこで一旦口を閉ざすと、うつむけていた顔をゆっくりとあげた。
そして、真正面から見つめてくる。
強い光を放った瞳で。
「てめーが好きだ」
なんの迷いも感じない眼差しと声音で告げられ、思わず顔を歪めてしまった。
胸の奥深くに、思い何かが突き刺さったような感じがして。
慌てて表情を取り繕うとした。だが、うまくいかない。
怒りの表情も、馬鹿にするような表情も、呆れの色をたたえた表情も、何一つ浮かべることが出来ない。
「……男なんかに告られたって虫ずが走るだけなんだよ」
表情を繕うことを諦め、男から顔を背けて低い声で告げる。そして、手首を捕まれたままだった腕を大きく振った。男の手を振り払うために。
血が止まるほど強く握りしめられていたのだ。多少は抵抗するかと思ったが、男はなんの抵抗もせず、すんなり離れていった。
足を一歩二歩と引いて、距離を取る。そしてギロリと、男の顔を睨みつけた。
その眼差しを、男は静かな瞳で見つめ返してくる。
どうやら腹を括ったらしい。
その瞳に後悔の色は欠片もみえない。
「……てめぇ」
言いかけ、口をつぐむ。なにをどう言って良いのかわからなくなって。
盛大に舌を打つ。そして、無言で踵を返した。
先程のように「逃げるな」と言われる事はなかった。追い掛けてくる気配もない。
背中に、痛いくらいの視線は感じるが。
その視線は、サンジがラウンジの中に入るまで突き刺さり続けていた。
ドアを閉めたところで深々と息を吐き出す。そしてドアに背中を預けた状態でズルズルとその場に崩れ落ち、膝を抱えてうずくまる。
「………チキショウ」
小さな声で、力無く罵倒の言葉を口にした。
なにに対してどんな感情をぶつければ良いのか、わからない。
「なんで、今になって……」
力無い声で呟き、更に身体を小さくした。
彼はなにも知らないのだ。わざとこのタイミングで告白してきたわけではない。
だが、なんで今になってと言う思いは、後から後から沸き上がってくる。
「どうせ告るならもっと早くに告ってこいっつーの……」
そうすれば、自分の気持ちを素直に口に出せただろうに。
彼に対する、自分の気持ちを。
そう思った瞬間、目の前に陰気な気配が浮かびあがってきた。
覚えのあるその気配にはっと息を飲み、顔をあげると、そこには薄ぼんやりとした黒いシミのようなものが浮かび上がっていた。
サンジが視線を向けたことに気づいたのか。そのシミの一部がゆらりと動いた。
人が手招きをしているかのような動きで。
ギリリと奥歯を噛み締める。
そうしなければ、怒鳴り出してしまいそうだったから。
「……心配しなくても、約束は守る。だからてめーはすっこんでろ。てめぇの出番は、まだ先だろうがっ」
怒りが滲み出した低い声で告げると、シミは軽くく震えた。
怒りを露わにするサンジを馬鹿にして笑っているかのように。
そう思うのは、自分の被害妄想なのかもしれないが。
やがて黒いシミは風に流されたかのように消えうせた。
ソレと同時に、ラウンジに広がっている空気が馴染みのあるものへと変わった。
深々と息を吐き出した。
そして再度、膝を抱えてうずくまる。
明日の朝からは、いつも通りに振る舞えるよう、気持ちを立て直すために。
いや、いつも通りにではない。自分らしく、告白なんてしてきた男に冷たい態度を取るために、だ。
「……でも」
少しだけ。
ほんの数分だけ、告白された事を喜ぶ時間を取っても良いだろうか。
今まで見たことがないくらい真剣な、真摯な瞳で見つめられたことを喜ぶ時間を取っても、良いだろうか。
それくらいの事は、許されるはずだ。
残された時間は、少ないのだから。
そう自分に語りかけながら、膝を抱える腕に力を込めた。
残り僅かな時間をいつも通りに過ごすための力を蓄える為に。
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