[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
書き終えた文章に目を通し、おかしな箇所がない事を確認して改めてマウスを握り直し、送信ボタンを押そうとしたところで、動きを止めた。
本当に、これで良いだろうかと、思って。
書かれた文章に再度目を通す。
朝から何度も頭の中で推敲を重ねた文章だ。多少の誤字はあるけれど、話しが通じないような箇所は一つもない。よほど言葉に不自由をしていない限りは、楽しく読める内容だ。
「……アイツは、不自由してる部類に入るだろうから、通じるかどうか、微妙なラインだけどな」
思わずボソリと呟いた。
それと同時に、脳裏に人の姿が浮かび上がる。
いままさに送ろうとしているこのメールの、送り先となる人間の姿を。
ゆるりと、口元がゆるむ。
自然に。
そうしようと思ったわけでもなく。
そんなとき、自分の思いが単なる勘違いではないことを認識する。
彼の事が好きだと思う気持ちが嘘でも勘違いでも気のせいでも、雰囲気に流されたせいでもないと。
彼が自分の目標に向かって打ち込むその姿を見ているだけで、気持ちが上向く。
自分も負けていられないと思う。
近くに居たいと思う。
その気持ちと同じくらい、邪魔をしたくないと思う。
一緒に居られる時間が欲しい。
でも、その時間も目標に向かってひた走るために使って欲しいと思う。
矛盾する気持ちだが、そのすべてが本当の気持ちだ。
その内どれだけの気持ちを伝えるべきなのか。付き合っている月日だけは長くなっているが、今だにそのラインがわからない。
頭の中で色々考えながら何度か打ち込まれた文章を見つめたあと、マウスにのせていた手を放してキーボードにのせる。
そして、一言。
あっという間に打ち込める、短い言葉を打ち込んだ。
今の自分の、素直な気持ちを。
そして直ぐさま、送信する。
読み直したら、先程打ち込んだ言葉を消すことは、嫌というほどよくわかっているから。
椅子の背もたれに背中を預け、軽く身体をのばした。
見慣れた部屋の天井を見つめながら、口元を緩める。
「さて、どんな反応が返ってくるかね」
笑みの混じる声でつぶやき、軽く瞳を閉じた。
あの一言を受け取った彼が何を思うのか、想像しながら。